Rooms & Dreams Interview with Wisut Ronnimit

部屋では出来るかぎりスイッチオフしたい。
仕事を離れて“人生”という時間を過ごす場所だから。

バンコクから車で約30分。都会の喧噪とは無縁の閑静な住宅街に佇むモダンな一軒家。ここは、タイで絶大な人気を誇り、日本でも活躍中の漫画家でアーティスト、ウィスットさんの自宅兼オフィスだ。
タイと日本で活動し、多忙なウィスットさんが、仕事から離れてスイッチオフできる場所は、緑豊かな中庭を一望するリビングルーム。数々の作品を世に送り出しているウィスットさんだが、この部屋には、自身の作品はひとつも飾られていない……。
その理由には、彼のこれからの夢に通じる“想い”があった。

Wisut Ponnimit
Wisut Ponnimit (ウィスット ポンニミット)/漫画家・アーティスト
1976年生まれバンコク出身。シラパコーン大学デコラティブアート学部卒業後、1998年にマンガ家デビュー。2003年から3年間、神戸に留学。現在は、タイと日本で活動中。日本ではタムくんの愛称で親しまれ「Big issue JAPAN」「YEBISU STYLE」「翼の王国」「リンネル」でマンガ連載、オーディオテクニカウェブサイトにてアニメーション連載中。マンガ代表作『ヒーシーイット アクア』で2009年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門奨励賞を受賞。ミュージシャンとしても活動しており、細野晴臣、阿部海太郎、星野源などと共演。2013年、原田郁子と共にCD「Baan」を発表。
http://www.wisutponnimit.com/
家族のこだわりが詰まった空間 ーモダンな一軒家で素敵です。この部屋は家族と過ごす部屋ですか? はい。この部屋はリビングルームです。こちら側の建物は自宅として利用していて、奥さん(ファッションブランド「VL by VEE」デザイナーのウィーさん)とネコ5匹と暮らしています。中庭をはさんで向こう側の建物は僕と奥さんのオフィスです。 ー庭の緑が映える明るいお部屋ですね。タムさんがデザインを? 僕と奥さんで部屋のスケッチをして、風水の先生に相談しながら、知人の建築家に設計をお願いしました。壁の幅や、窓の位置や大きさ、天井の高さ、ビルトインクーラーの位置まで、自分たちで考えました。特に、部屋から見える景色にはこだわりました。リビングからは、敷地の外の景色は見たくなくて。自分が見たい景色だけが見えるようにしました。
ーインテリアのこだわりはありますか? シンプルな空間にしています。そのほうが綺麗かな〜って。物が多いのはストレスになりますね。物に責任を感じちゃう。この部屋は平和に地味にしたい。(笑) ーシンプルながらもセンスが感じられます。お気に入りの家具はありますか? キッチンの入口にある白いイスは面白いですよ。見た感じは堅そうなのに座ると柔らかいんです。変でしょ。キッチンで料理している時の休憩スポットにしたり、コンセントが近くにあるから充電しながら携帯を見たりします。
多忙な生活の中で、スイッチオフできる時間 ー漫画家として忙しい日々を過ごしていますが、この部屋でも仕事はしますか? ここではできるだけ仕事はしたくないんです。仕事のことはあまり考えない。なんでずっと考えるの?って思っちゃう。自分のイラストが描かれたTシャツも家では着ない。スイッチオフしているんで、休憩したい場所です。でも〆切がギリギリの時は簡単な仕事は持ち込むこともあるんですけどね。(笑) ータイと日本を行き来し多忙な日々を過ごす中で、きちんと休憩ができる場所は大切ですよね!仕事の割合は今どのくらいですか? タイと日本でちょうど半分ずつかな。でも仕事の種類が違います。タイではブランドや企業とのコラボレーションでイラストを描いたりグッズを作ったりすることが多いです。日本では、雑誌での連載が多いかな。どっちも良さが違うから、バランスはいいと思います。 ー常に色々なプロジェクトに取り組んでいるタムさん。タイでも日本でもその活躍ぶりを目にします。 僕は、仕事はあんまり断らなくて、「自分はこれしかしない」とか「これは自分じゃない」とか思いません。「自分っぽくない仕事でもいいじゃん」って思うんです。やってみたら「結局自分じゃん」ってなります。「こんな自分もいたんだ」と思って、自分というものが大きくなる気がするんです。 ー漫画家は小さい頃からの夢だったんですか? 漫画家は「なるぞ〜」って気持ちじゃなかったから、夢が叶ったという気持ちはないです。気がついたら「あ〜やっちゃった〜。できちゃった〜。」の気持ち。だってタイではありえなかったので、漫画家になるなんて。 ー当時は、タイで漫画家というと、あまり確立された職業ではなかったんですよね。それでも漫画家としてここまで人気に!デビューのきっかけはありましたか? 誰にも見せないけど、昔から家で漫画をずっと描いてて、ある日たまたま1人の人に見せたら、「面白いじゃん」って。それで勇気が持てて色んな人に見てもらって、最終的に出版社に持って行ったんです。僕の最初の方の漫画はすごくグロい漫画だったから、こんなの見せたら嫌われるって思ってたんです。でも自分的には面白くて、それが色々な人にも、うけました。
ーデビューして5年で日本に留学されていますが、それはどうしてですか? 日本に行くのは夢でした。特に留学するっていう目標とかは無かったのですが、自分の力で日本に行きたいって気持ちがありました。ちょうど2003年にマンガの評論家の人に日本でやる勉強会に誘われて、それがきっかけで神戸に留学することにしたんです。 ー留学を通して日本でも活動の幅を広げられましたね。タムさんと言えば色々な漫画やイラストがありますが、部屋にはご自身の絵を飾っていないのですね? この部屋と僕の絵は合わないかなって思います。合っていたらもっと飾っているでしょうね。まだ飾りたいって思える作品がないんです。時々風水の先生に「この壁にあなたの絵があったほうがいいよ」って言われたりするんですけど、そういう時に、どういう絵がいいのかなって考えたりします。 ーということは、これからこの部屋に合う作品が生まれる可能性も? 出てくると思います。ただ、自分のやっている絵とこの部屋の共通点がまだ見つけられていない。絵を飾るなら、部屋に合わせて描いたほうがいいと思っています。 ーそれはタムさんにとってやりたいことのひとつですか? 空間に合わせて絵を描くのは、自分の部屋に限らず今やってみたいことの一つです。絵が素敵だから部屋に飾るのではなくて、絵を飾ることで空間がひとつの作品になるように、空間をデザインしてみたいです。建物を見てから絵を描くでもいいし、絵を先に描いてそれに合う建物を考えてもいいです。あくまでも作品は部屋。まだやれていないけれどやってみたい。夢ですね。
いろいろな“時間”を過ごす、部屋 ーその他にも夢はありますか? 空間に合わせて絵を描くのもやってみたいけど、これからも面白い漫画をたくさん描きたい。漫画の他に、音楽もやってるんですけど、もっと音楽も上手になりたいです。ギターの演奏も作曲も。毎月アニメの音楽も作っているから、いい曲を作りたいです。
ーこれからの活動もますます楽しみです。最後にタムさんにとって部屋とは? 部屋とは“時間”を感じる場所。それぞれの部屋によって感じる時間の種類は違っていて、このリビングで感じる時間は、くつろぐ時間、いい景色をみたい時間、仕事をしない時間、そして“人生”という時間です。 photo /Takayoshi Nakajima text/Ai Tanaka composition/iD inc.
シェアする

最新記事